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ハイテクレースに見る自動車の近未来  2008年01月24日(木)
REPORT of Month
REPORT OF
DARPA URBAN CHALLENGE 2007

文●河口まなぶ 写真●フォルクスワーゲングループジャパン


ハイテクレースに見る自動車の近未来

 アメリカのL.A.郊外で「DARPA Urban Challenge」が開催された。これは自律走行するロボットカーのレースで、米国国防総省高等研究計画局(DARPA)の主催によるもの。
 砂漠の中で開催された前回のレースでは、スタンフォード大学とVWによるトゥアレグが優勝したが、今回も同じタッグでパサートをベースとしたジュニア号で参戦となり、我々はこのチームを取材した。
 レースの舞台となったのは、米空軍基地内の廃墟。ここを市街地に見立てたコースとし約60マイルの距離をロボットカーが走る。コース内には有人運転のオフィシャルカーや信号機、交差点、駐車場などを設定することで、ロボットカーたちがリアルワールドでいかに法規を守り安全に走るかを競うわけだ。
 ロボットカーは参加各大学(と自動車メーカー)の英知を結集して作られたもの。基本的には誤差数cmの高精度DGPSを搭載して自車位置や走行状態を把握。加えて高性能なレーダーやカメラが「目」の役割を果たし環境を認識する。そうした情報を元にロボットカーの頭脳であるAI(人工知能)が総合的な判断をし自律走行する。ただし我々が取材したジュニア号は、他とは違ってカメラを用いずレーダーとDGPSのみを使うのが特徴だ。
 35台による予選から決勝に進んだのは、我々が取材したジュニア号を含む全11台。これらのロボットカーにはまず、所定場所への駐車や切り返しを含むUターン、指定場所通過などの任務がデータとして事前に与えられ、後はロボットカーが状況を判断しつつ自律走行する。だが実はデータに含まれない道路封鎖といったトラップも設定されるため、迂回する必要があるなど難易度は極めて高い。
 次々の自律走行していくロボットカーの中にはコースアウトや建物に激突するクルマもいたが、我々が取材したジュニア号はとても的確な状況判断で見事完走を果たした。しかし優勝はカーネギーメロン大学とGMのタッグによるBoss号に奪われた。そしてジュニア号は惜しくも2位となった。優勝賞金は200万ドルで、ジュニア号も100万ドルを手にした。
 主催者である米国国防総省高等研究計画局がこのレースを行う目的は、参加大学や自動車メーカーに先進技術を開発してもらい、それを今後は平和的軍事転用することにある。だが一方でこれら技術は無人兵器の基礎にもなる。そう考えると国家予算から出る賞金は軍事技術の研究開発費というのが実際だろう。
 とはいえ自動車メーカーはこうした先進技術を安全技術やITS技術に今後積極的に転用していきたいという思惑もある。事実これまでも軍事技術の転用によって、自動車は大きな進化を果たしている(例えばGPSによるナビシステムがそれ)。つまり米国国防総省高等研究計画局と自動車メーカーで目的は違うが互いの思惑が一致したレース、でもあった。


60マイル(約96km)におよぶ市街地を模したルートを100%コンピューター制御によって走行するというアーバンチャレンジ。パサートは2位入賞車を含め3台が決勝に進出した。








これらのクルマに搭載された技術は、近い将来ドライバー支援システムとして運転手の負担を軽減することで、安全性や快適性に大きく寄与するとVWの研究者はコメント。






VWアメリカに設立されるエレクトロニックリサーチラボラトリーのスタッフたち。革新的な機能やアプリケーションの企画・開発を行っている。







PROFILE
河口まなぶ
自動車専門誌のみならず、一般誌やCS放送でも活躍する実力派ジャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


オトナになって帰ってきました  2008年01月10日(木)
REPORT of Month
NEW ARRIVAL OF
SMART FORTWO

文●石井昌道 写真●メルセデス・ベンツ日本


オトナになって帰ってきました

 もう間もなく日本でも乗れることになる新型スマートだが(08年1月からデリバリー開始)、今回は一足早く、アメリカはサンフランシスコで試乗してきた。
 一見すると旧型とさほど変わりがなく見えるが、わずかながらも大型化されたことで実物は随分と存在感が高まっている。また、傾斜を与えられたリヤウインドーや後方に向かって勢いよく跳ね上げられたキャラクターラインなどによって快活な印象も受ける。どこから見てもスマートではあるのだが、10年分のアップデートは確実になされているのだ。
 走らせてみても、進化の度合いはしっかり感じ取れる。従来モデルもマイクロコンパクトらしからぬシッカリ感があったが、新型はそれにシットリ感も加わった。せわしないピッチングが抑制され、低速域での乗り心地にも角がない。短いホイールベースと背の高さを考えれば、このコンフォート性能は立派だろう。ボディ剛性の強化と、サスペンションのスムーズ化に心血を注いだことがうかがい知れる。
 もちろん、快適になったからといって操縦安定性がおろそかにされたわけでもない。マイクロコンパクトが苦手とする高速道路での進化幅も大きいのだ。最高速度の145km/hまで試してみたが、サスペンションの動きなどに不安感はなかった。もっとも、風の影響は如何ともしがたく、本当にリラックスして走れるのは100km/h+α程度。それでも日本で使用する分には十分で、シティミューター以上の働きをしてくれるはずだ。
 エンジンは700ccターボから1L NAへと換装された。高速域での力強さが増したことも嬉しいが、それ以上にメリットを感じたのが2ペダルMTとのマッチング。発進時やシフトアップ直後など、低回転域での粘り感と自然なフィーリングが功を奏して、スムーズな走りを実現しているのだ。また、ミッション自体も進化しており、シフトアップ時の空走感が気にならないレベルになっている。ただし、Dレンジでのシフトプログラムは省燃費を意識してか随分と低回転を保とうするのでドライバビリティ的に不満を覚えることもあった。少しでも活発に走りたいときは、即座にマニュアルモードを選ぶべきだろう。
 さらに、ターボ特有の金属音が消えたことで、室内で聞くエンジンノイズが耳障りではなくなったこともメリット。ダッシュボード周りなどの軋みも減って静粛性は全体的に向上している。
 今までは「こんなに小さなクルマだから仕方ない」と半ば諦め、納得していた部分が、大いに進化したのが新型スマート・フォーツー。普段はメルセデス・ベンツのサルーンに乗り、近所のお買い物にはフォーツーで。そんな使い方をするユーザーにも応えられる高品質なマイクロコンパクトカーとなったのだ。


インパネは直線基調となり、横方向辺の広がり感が増した。ただし、ラウンドしていた従来モデルのほうが遊び心は強かったかもしれない。ホイールベースが延長されたことで、室内の縦方向の余裕は大きくなっている。












エンジンは1.0L NAへ。700ccターボよりも最大トルクはわずかに下がったが、最高出力は10馬力アップ。高速域での頼もしさが断然違う。ミッションは6速から5速へダウン。


PROFILE
石井昌道
レース参戦経歴を持つ自動車ジャーナリスト。スポーツカー好きゆえ走り味には一家言アリ。たとえマイクロコンパクトでもそのチェックには抜かりない。


食もクルマも素材にこだわればこうなる?  2007年12月20日(木)
REPORT of Month
NEW ARRIVAL OF
ASTON MARTIN DBS

文●九島辰也 写真●アストンマーティンジャパン


食もクルマも素材にこだわればこうなる?

 アストンマーティンなんていうと“映画の中のクルマ”という印象が強い。イメージはまさにボンドカーで、ジェームズのような風貌の人が乗っていそうだ。とはいえ、このところの販売台数の伸びは顕著で、ものすごい勢いで成長している。もちろん、日本での伸びもそれに準じ、2005年は110台だった数も昨年は229台に膨らんだ。つまり倍以上。もっというと04年は69台だったのだから、この加速は恐ろしい。
 なんて状況に拍車をかけるクルマが登場した。アストンマーティンDBSである。こいつはいわずと知れたバンキッシュSの後継で、ラインアップのフラッグシップに立つ。12気筒エンジンをフロントミッドにマウントし、リヤアクスルで後輪をドライブする。そのパッケージングは通例に則るが、今回は素材から大きく見直された。そう、全身カーボンファイバーだらけ。目的は大幅な軽量化で、結果1695kgまでダイエットに成功している。
 具体的には、フロントフェンダー、ボンネット、トランクリッドなどがすべてカーボンファイバー製となる。そしてデザインはどこから見てもひとめでアストンマーティンとわかるものとなった。というか、じつは映画「カジノロワイアル」に登場したそのままの格好。つまり、映画はあからさまなプロモーションだったのである。それはともかく、デザイナーは“タフな男性がタキシードを着たイメージ”と語っていた。他のメーカーなら大きなリヤスポイラーでもつけそうなフォルムも、アストンマーティンはそれをせずに美しくまとめるという。この辺はイタリア系スーパーカーを意識したコメントかもしれない。
 シャシーフレームはお得意のVH構造。DB9のそれと共有するが、クロスメンバーなどで補強される。そして今回ヘッドまわりが新設計となったオールアロイ製6L V12が搭載される。マックスパワーは517馬力。時速0kmから100kmまでの加速は4.3秒となる。トランスミッションはいまのところグラチアーノ製6速MTのみだが、いずれシングルクラッチのATあたり追加されそうだ。
 さてさて、そんなプロフィールのクルマをフランス南部のリゾートで走らせたのだが、とにかくその走りには驚かされた。スタートはまさにジェントルなのだが、回転域が上がると獣のように吠えはじめる。そしてシートに押し付けられる加速。これまでもDB9やV8ヴァンテージはさんざん乗ってきたが、今回は確実にそれ以上といえる。しかも、足さばきは軽快で、12個のシリンダーを積んでいるとは思えないフットワークなのだ……。
 なんて話しだすとここじゃスペースが足りない。まぁ詳細は別としてとにかくモンスターマシンであることはたしか。で、じつは価格も3270万円とモンスター。まぁあれだけ素材にこだわればそうなるわナ。納得!



6L V12エンジンをフロントミッドに搭載し、リヤにトランスアクスル方式を採用する。これで前後重量配分はほぼ均等。最高出力517馬力を発揮するエンジンはインテークが白く覆われる。


ダッシュパネルは新設計ながら大きく変わらない。定員は2名でリヤはカバン置き場。シートはレカロ製。スターターに差し込むキーらしきモノはサファイアクリスタルからなる。


PROFILE
九島辰也
モータージャーナリスト兼コラムニスト。自動車雑誌からファッション誌、サーフィン誌まで幅広く活動中。座右の銘は「付和雷同」。


バック・トゥ・ザ FRアルファ!  2007年12月06日(木)
REPORT of Month
NEW ARRIVAL OF
ALFA ROMEO 8C COMPETIZIONE

文●渡辺敏史 写真●フィアットグループオートモビルオブジャパン


バック・トゥ・ザ FRアルファ!

 以前、旧いアルファロメオのジュリア系FRに乗って、その走り味にびっくりしたことがある。たしかに独特の角度で据えられたステアリングコラムの支持感やシフトレバーの操作感などはクニャクニャしていたものの、裏腹にきちんとリフレッシュされたボディやアシは驚くほどカチッとしていたという。
 8Cに乗ってまず頭を巡ったのは、マセラティフェラーリとの近似値を探るような意地の悪い思いではなく、昔からのそういうアルファとこれは一脈通じているのではないかということだった。適当な捌きではドリフトなんかに持ち込むこともままならないほど後軸は路面との密着感に満ちている。そんな状況でも前輪の操舵はきちんと効き、四隅に居たるまで一体感をもって把握することが出来るのは、まさにジュリア辺りのアルファのそれだ。少なくとも僕らがよく知っているFF系のそれとは全然違う乗り物である。
 アルファの名がつくFRとしてはES30のSZ以来だろうか。ザガートではなくチェントロスティーレ=社内デザインによる8Cの表皮は、そのほぼすべてがカーボン製となる。フロア側とは接着剤とリベットによって剛結されるなど、その構造はかなり特殊なものだ。
 その名が示すとおり、8気筒のV型エンジンはフェラーリF430マセラティクアトロポルテ等に使われるもの。それのボア×ストローク比はほぼそのままに4.7Lまでスープアップし、パワーは450馬力を発揮する。油脂類を搭載しての車重はこのテのクルマとしては軽めの1585kg。FRにして49:51の前後重量配分を実現できたのはトランスアクスルレイアウトを採用したことが大きい。やはりフェラーリマセラティが採用するグラツィアーノ製の6速ギヤボックスはマニエッティの2ペダルシステムによってリンケージされ、2種類の変速マネジメントの早い方を選べば0.2秒で変速を完了するという。
 8Cはダッシュボードを始めとする車内の骨格にもドライカーボンを積極的に採用しており、削り出しのアルミ剤がトリムとして効果的に配される。シート表皮はポルトローナフラウ製となり、完全2シーターのリヤキャビンスペースに3分割でピッタリとフィットするスケドーニのバッグはオプション設定だ。たとえばF50のような、オールカーボンボディ特有の神経質な共音振は入念に処理されている印象で、エキゾーストノートも含め、その味付けは大人のストリートGTという一面が重視されたのだろう。
 揺るぎなく仕上げられたとことんニュートラルなFRのパフォーマンスが、始終軽快かつしなやかな乗り心地にくるまれる。極めて高いレベルで常識的なその成り立ちからはフェラーリマセラティとの関連性を伺えない。アルファとは伝統的に正直な運動性のクルマ。8Cはそれを証する企画でもあったのだろう。



薄いマットコートが施されたドライカーボン骨格に、控えめに本アルミ&レザートリムが配されるスパルタンな車内。一方で、操作モノの触感やスイッチ類の仕立て品質などはスペシャルらしく細かな気遣いが施されている。


専用仕立ての4.7L V8はやや低めのサウンドを響かせつつ、レブリミットまでカッチリと仕事をこなすタイプだ。






おおむねコンセプト通りに再現されたスタイリング。表皮はほぼ全てがカーボンとなり、上屋の軽さは実際の走りでも相当に効いている。






PROFILE
渡辺敏史
超売れっ子の自動車ジャーナリスト。理論だけではない、愛情に満ちた独特の感性によるクルマ評論には定評がある。


今年のフランクフルトは「予想以上と期待外れ」!? 2  2007年11月22日(木)
環境の次に目立ったのは、クーペ&スポーツカー。燃費や二酸化炭素の削減ばかり叫んでいると、本気でユーザーに愛想をつかされるという自動車メーカーの焦りの表れかもしれない。とくに、フェラーリランボルギーニなどの専門メーカーだけでなく、これまでスポーツカーとは無縁と思われていたフランスメーカーがこぞってクーペモデルを出展していたのが印象的だった。ただし、ルノーラグナ・クーペのコンセプトカーの全幅は1.9mオーバー。
























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今年のフランクフルトは「予想以上と期待外れ」!? 1  2007年11月22日(木)
REPORT of Month
THE SPECIAL REPORT OF
FRANKFURT MOTOR SHOW

文と写真●GooWORLD


今年のフランクフルトは「予想以上と期待外れ」!?

 例年とは異なり、スーツ姿で歩きまわっていても苦にならない過ごし易い気候のなかで開幕した今年のフランクフルトモータショー。あまりの涼しさにビール片手でひと休みという気にならなかったのはちょっと残念だが、仕事という立場からすれば、絶好の取材日和となった。
 今年のフランクフルトは右を見ても左を見ても環境一色。地球温暖化に加え、2012年から欧州で新燃費規制が施行されることもあり、どのメーカーもハイブリッドや小型車など低燃費を謳うクルマが出品車の大半を占めた。
 とくに地元ドイツメーカーは、緑の党などの突き上げもあり、環境問題に全面降伏といった様相。ベンツはメインフロア一面に低燃費車10数台をダダーンと並べ、BMWは初公開の大型SUVのX6をハイブリッドのオブラートで包みつつ通常出品車すべてに大きく燃費を記載。またハイパフォーマンスカー3台をこのショーで初披露するポルシェはその3台を目立たない奥に追いやるだけでなく、コンファレンスで「あんまりイジめんなよ」と若干逆ギレ気味の発言するなど、環境問題への反応ぶりは予想をはるかに超えたものだった。
 予想以上といえば、フランスメーカーの出展ラッシュを忘れるわけにはいかない。フランス勢にとってはアウェイ開催にも関わらず、ルノーは初見せのコンセプトカーと新型車を5台、プジョーも4台持ち込むなど、「ここはパリ?」と錯覚するような、大賑わいだった。
 逆に期待外れだったのは、欧州メーカーの新型車たちである。それ自体はどれもすごく魅力的だったのだが、いざ日本でと考えるとどれも大きくなり過ぎの感があった。アウディA4プジョー308ルノーカングーなどなど、どれも揃って全幅1.8mオーバー。衝突安全のためとはいえ、このままでは、縮小気味の輸入車市場がさらなる逆風にさらされる可能性大といえる。
 エコと肥大化。今年のフランクフルトは日本にとっては天気同様、ちょっと熱くなれないショーだった。



会場へはフランクフルト中央駅会場から歩いて行ける。幕張メッセもそのくらいアクセスがよいといいのだが…。地元ドイツ勢はどこも巨大な展示スペースを確保する(写真右)。



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エコという潮流に乗ったコンパクトSUV  2007年11月01日(木)
REPORT of Month
NEW ARRIVAL OF
VOLKSWAGEN TIGUAN

文●渡辺敏史 写真●フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン


エコという潮流に乗ったコンパクトSUV

 いよいよ世界的に、待ったなしの雰囲気になったきた感のある温暖化問題。その当事者でもあるクルマにとっては二酸化炭素の排出量抑制は急務であり、そのために実用燃費を低く抑えることはイコールとされている。コンパクトなクロスオーバーやSUVの計画・開発が盛んになっている背景には、こういった時流が影響しているのは明らかだ。
 一見はトゥアレグの成功を受けて、そのディフュージョン的なモデルとして登場してきたようにみえるこのティグアン、しかし商品企画自体はむしろそういう現状を汲んでのものだとみて間違いはないだろう。そしてRAV4CR-Vエクストレイルなど、元々このクラスに多くの車種を擁している日本車勢にとっては、いよいよ本丸が参入してきたということにもなる。4430mmの全長、1810mmという全幅は奇しくも前述のクルマたちのそれに並んでおり、欧州での価格帯もおそらくは近いところになるはずだ。
 ゴルフの派生モデルと思われがちなティグアンのメカニカルコンポーネンツはむしろパサートのそれに近い。ドライブトレーンの要となる4モーションはハルデックス式カップリングを用い、通常で前90の後10、オフロードモードでは最大100に近いところまで後輪側に駆動力を回すというレンジの広い設定になっている。本国仕様のティグアンでは標準のトレンド&ファン、オンロード前提のスポーツ&スタイル、そしてオフロード性能強化のトラック&フィールドという3つのグレードが展開されるが、そのうちトラック&フィールドには登下坂時のブレーキアシストやESPのブレーキ制御を活用し各輪にデフ効果をもたらすEDS、ATやスロットルの最適制御など悪路走行に適した電子制御をボタンひとつで呼び出せるオフロードモードが搭載されている。また、外観上では28度のアプローチアングルを確保する専用バンパーがルックス的な差異となっている。
 搭載されるガソリンエンジンは3種類となるが、うち150馬力を発揮する1.4L TSIはティグアン用の新規設定となる。このエンジンには過給器のコンプレッサー側をアイドル時から直結する機能が設けられるなど、極低速域のドライバビリティ、すなわちオフロード走行を前提とした調律がなされているわけだ。
 ティグアンのフィーリングでもっとも際立っているのは強烈なまでのボディ剛性とハンドリングの精度の高さだろう。この点は乗っての品質感という点で、とくに高速域においてライバルに対してのアドバンテージを築いている。一方で、低速域の乗り心地はやや渋さがみられた。限られた試乗のなかではオフロード性能に劇的というほどのものは感じられなかったが、生活4駆プラスアルファというこのクラスの水準以上のものは備えていることは確認できた。



内装品質は間違いなくクラストップ水準。後席居住性、荷室容量ともに充分に確保されている。簡単に収納できる新開発のヒッチにより、2500kgのトーイングにも対応する。


フロントバンパー意匠を変え、体躯の時点からオフロード前提となる「トラック&フィールド」グレード。多彩な電子制御の後押しもあり、悪路にイージーにアプローチすることができる。






PROFILE
渡辺敏史
ハードとしてはもちろん、クルマ世相にも精通した自動車ジャーナリスト。造詣の深い語り口で業界内部にもファンが多い。


みんなが待ちこがれたあのクルマがついに  2007年10月18日(木)
REPORT of Month
NEW ARRIVAL OF
FIAT 500

文●渡辺敏史 写真●フィアット・グループ・オートモービルズ・ジャパン


みんなが待ちこがれたあのクルマがついに

 少なくともイタリア国内で、このクルマがいかに待ち望まれたものであったかということは去る7月4日、トリノでの発表会に参加して唖然とするほど感じ取ることができた。
 街の真ん中を流れる河のほとりで夜10時から始まったその発表会は、新車1台のお披露目としてはまったく経験したことのない凄まじいスケールだ。0時を軽く回る辺りまで事故のように乱れ打ちで上がり続ける花火、その間に繰り広げられる幾つもの大がかりな見せ物も含め、その騒ぎはまったく常軌を逸したものである。プロデュースはトリノ五輪の開閉会式で総合演出を担当したお偉いさん、そして一説にはこの日のローンチイベントだけでフィアットは10億に近い予算を投じたというから、ともあれその意気込みは尋常ではない。しかしその対価には余りあるイタリア国民のありえない盛り上がりをみていると、フィアット500というブランド自体が彼らにとって精神的な支柱となっていることを痛感させられた。ともあれ、これほど愛されるクルマの幸せの一片が舞い込むのなら買っても悪くないんじゃあないか。そう思わせるほどのドンチャカぶりなわけである。
 日本市場は当面の予定として、来春に1.2Lと1.4Lの2ペダルMT右ハンドルが導入される予定だという新型フィアット500。その元ネタは既に日本にも導入されてお馴染みのニューパンダだ。そして100馬力を発揮する1.4Lエンジンもグランデプントで上陸している。中身的なところでの鮮度は薄いが、ニューパンダといえばこのクラスでは屈指の出来と太鼓判を捺せるクルマゆえ、期待値は高い。一方でパンダは快適性や質感の面でライバルに見劣る部分があり、そこが商品力のネックにもなっていた。
 平たくいえば新型フィアット500はまさにそういったパンダのネガをきちんと潰したクルマといえるだろう。多くの人が知る2代目の外観のみを意匠的に模したというだけのクルマではない。個々のパーツはきちんとデザインされているばかりでなく、質感もきちんと吟味されている。乗って明らかに違うのは静粛性の高さ、そしてタイヤサイズを加味すればバイブレーションの類がしっかり減じている点だ。パッケージの練度も含め、企画モノの一発芸にあらず、という意思は充分に伝わってくる。
 走りはパンダが持つ素晴らしいロードホールディング性能や上屋のロール管理性能をそのままに受け継ぎつつ、軽快感も損なわれてはいない。回して全力で走るイタリア車らしさを愉しみとして見いだすなら、むしろ選ぶべきは1.2Lのベーシックモデルだろう。ニューミニ的なカテゴリーのクルマではあるが、走ってナンボの部分を純粋に比べると、総合的な魅力はなんら見劣りがない。待ちに充分値するクルマである。



旧い石畳路の連続入力にも音を上げない足回りはこのクルマの大きな魅力。ゲインに対するロールの間合いや深さも絶妙で、安心して全開にできるイタ車らしい充実感が味わえる。







内外装の質感はフィアットとして充分に頑張ったといえるもの。デザイン優先的なシートだが掛け心地も悪くない。後席を含めたパッケージもサイズ相応に練られている。


トリノを埋め尽くした数百台のオリジナル500。発表記念イベントは全土で展開された。








PROFILE
渡辺敏史
ハードとしてはもちろん、クルマ世相にも精通した造詣の深い語り口に定評のある自動車ジャーナリスト。ルポGTI を所有するなど、コンパクトカーは「かなり好き」派。


9-3シリーズがマイナーチェンジで精悍に  2007年09月20日(木)
REPORT of Month
NEW ARRIVAL OF
SAAB 9-3

文●松田秀士 写真●ゼネラルモーターズ・アジア・パシフィック・ジャパン


9-3シリーズがマイナーチェンジで精悍に

 サーブは、ボルボと並ぶスウェーデンの自動車メーカーだ。そのルーツは航空機メーカー。「SAAB」とは、スウェーデン航空機株式会社の頭文字をとったもので、主に戦闘機を製造している。このあたり、日本のスバルに通じるところがあったりしておもしろい。
 ところで、9-3のビッグマイナーチェンジが行われたので、さっそく母国スウェーデンで行われた国際試乗会に参加してきた。スウェーデンは福祉国家として有名だが、原発ゼロにして環境国家としても知られている。で、今回の試乗会のメインは、じつはバイオエタノールとディーゼルだったのだ。しかし、ハイブリット国日本において、このふたつの環境燃料はまだまだ先のお話。バイオエタノールは、日本ではまだ3%混合程度ですから(今回の試乗車は85%)。
 そこで、ちゃんとガソリン仕様車もチェックしてきました。
 エクステリアデザインでは、Aピラーよりフロント側を一新。まずは、昨年のジュネーブショーで発表されたAeroX(ドアとルーフがキャノピーのように開閉するコンセプトモデル)のデザインを流用した、彫りの深いフロントマスクが特徴。ライトはトレンドの切れ長に。そして写真のように、クロームで縁取りされたグリルまわりやF1ウイングを連想させるような精悍なフロントエアロだ。
 今回のフェイスリフト、スポーツセダンに至ってはボディパネルやパーツ類で全体の70%が新設計となった。サーブのデザインフィロソフィーである航空機の翼をイメージさせるフォルムはそのままに、現代的なエッセンスを盛り込んだデザインは馴染みやすいと感じた。インテリアでは、待望のNAVIが組み込まれるようになるなど、日本のユーザーにとっては間口が広がったといえるだろう。
 気になる走りだが、相変わらずサーブの個性であるしなやかなストローク満点のサスペンションは健在で、ソフトな乗り味なのに高速ではしっとりと路面に吸い付いたようなスタビリティの高い安心できるハンドリングだった。また、現行モデルに比べて静粛性も高くなったように感じる。
 サーブでは、将来的にはバイオエタノールとディーゼルの2種類のエンジンに限定してゆく方向にあるようだが、そこには環境のみならず最近の原油高など国際情勢を見越した判断があるようにも思える。トヨタがハイブリットで席巻するように、サーブの躍進があるのか興味深いところだ。



航空機の操縦席を思わせる個性的なインパネは、ナビが組み込まれたことが大きい。シートも表皮はソフトだがしっかりサポートで疲れない。


E85(85%バイオエタノール混合)仕様は、ガソリンよりオクタン価が高いのでターボのブースト圧を高く設定できガソリン車よりもパワフル。マジ速い!






■XWD
最新の4WD技術であるXWDも注目。Xが示すように対角線方向の車輪を効率よく制御し、ブレーキ制御に頼らないシームレスなトラクションが自慢。ダートや低ミューのテストコースでは抜群のハンドリングを示した。





PROFILE
松田秀士
インディー500出場経験を持ち、今もスーパーGTに出場する52歳。レースで培った感覚で輸入車を斬る。日本カーオブザイヤー選考委員。


際限のない人の欲望に感謝!  2007年09月06日(木)
REPORT of Month
NEW ARRIVAL OF
PORSCHE 911 TURBO CABRIOLET

文●河村康彦 写真●ポルシェジャパン


際限のない人の欲望に感謝!

 おおよそ人間の欲望たるや、留まるところを知らないもの――思わずそんな哲学がかった(?)事を考えてしまいそうになる1台がこのモデル。最高速は300km/hを確実に超え0→100km/h加速タイムも4秒そこそこ。ずば抜けたハンドリング性能を含め定評の走りはそのままに、オープン・エアモータリングの愉しみまでを加えてしまったのが新しい911ターボ・カブリオレだ。
 前述のようにこのモデルの走りの能力は、すでに発売済みのベース・モデル『911ターボ』のそれとほぼ同様。ちなみにこのクーペの場合と同様、カタログ上の発進加速タイムがMT仕様よりもAT仕様の方が上まわるのは、こちらがブレーキを踏み付けたままの状態でアクセルペダルを開き、予めターボチャージャーのブースト圧を高めた上でその強大なトルクを一気に4輪へと叩きつける“ストール発進”が可能であるからと推測出来る。
「軽量さと低重心ぶりがスポーツカーには最適だから……」と、現在流行のクーペ・カブリオレ方式ではなく、あえて軽量な(重心の低い)ソフトトップ方式を用いたルーフ部分以外はクーペ用と同様に見えるボディは、じつは専用の空力処理が施されたデザイン。120km/hに達するとせり上がるリヤ・ウイングは、その65mmというアップ分がクーペの場合よりも30mm大きい設定。これにより、このモデルは「リヤ・アクスルにダウンフォースを与える事の出来る世界唯一の量産型カブリオレ」に仕上げられているのだ。
 ソフトトップの採用やボディ各部の補強などにより、比較をすればクーペよりも70kgのウエイトハンディを背負うこのモデル。が、いざアクセルペダルを踏み込んでみれば、そうした“重さ”など、まったく感じる事はない。何しろ、重くなったとはいえ1.6トン台半ばに留まっている車両重量に対し、3.6Lのツインターボ付きフラット6エンジンが生み出すのはじつに480馬力という最高出力と63.2kgmという最大トルク。しかも、オプション設定の“スポーツクロノ・パッケージターボ”を選択しセンターコンソール上のスポーツボタンをひと押しすれば、エンジン回転数が2100〜4000rpmの範囲でのフルスロットルでオーバーブースト機構が作動し最大トルクは69.3kgmにまでアップする。
 実際、国際試乗会が開催されたドイツのアウトバーン上では瞬く間に250km/hを突破し、なかにはオープン状態で(!)カタログ値を上まわる314km/hまでをマークしたという同行者まで現れる始末。もちろん、オープンボディとはいえポルシェ車ならではのシュアなハンドリングぶりは健在だ。
 日本に導入のAT(ティプトロニック)仕様の軽く2000万円を超えたプライスタグまでを含め、まさに「何から何までが最高!」のオープン・モデルがこの1台なのである。



高価なクルマだけにインテリアのクオリティは一級品。また、注文で各部を自分好みに仕立てられるのもポルシェならでは。フロント・トランクは4WD駆動系の張り出しで小さめ。


一見クーペと同じと思いきや、空力性能の追及でリヤ・ウイングには専用の可動ディバイスを採用。ルーフは50km/hまでならば走行中も開閉可能。





左の初代ターボ・カブリオレのデビューは、今からちょうど20年前。とはいえ、2バルブの3.3Lユニットは300馬力を発生し、4速MTで260km/hの最高速を達成していた。





PROFILE
河村康彦
国内はもとより、海外の試乗会にも積極的に参加。それゆえ国内では試せない速度域での経験を含めたレポートに定評がある。現在の愛車はポルシェケイマンS。



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