一昨日、帰宅途中に渋谷駅の前で、一人の若者がギターを抱えて歌っていた。一人ぼっちだ。
詞も曲も自分で作ったようだね、誰かのカバーではない。彼に特別な才能があるのかないのか分からないのだけれど、一筆書きのような素直な曲だ。足早に通り過ぎながら、頑張れよと呟く一方で、ちょっと考えさせられた。
詞も曲も自分で作って、歌ってしまうのは凄いけれど、一人で全部済ましているなら楽しくないだろうな。
(オートバイに乗るなら、皆で走っても一人で走っても両方楽しいけれど。)
街頭で一人ぼっちで不特定多数の人間に自分の声を届けようとする前に、共感して一緒に詞や曲を作ったり、歌ってくれる仲間はいないのかな。近くに共感してくれる仲間も出来ないのに、彼に無関心な不特定多数に声を届けられるはずもないと思うのだけれど。
普段過ごしている世界では、そんな友人が見つからないので、勇気を出して街に一人で出て、共感してくれる仲間を探そうとしているのかな。
人生の一時期、特に若い頃に、”私が、私が”という気持がとても強くなることがある。見るとか、触るという経験・インプットの方が、はるかに人生にとっては有益で楽しいはずなのに、目も開けず、耳も聞こえず、小さな自分の内面に固執して自分に夢中になることがある。
小さな自分と分かるのは、時間が経って振り返ってからで、そんな状態の時には、自分や自分の考えがとても貴重で大事なもののように思えて、何かの表現媒体を使って、自分を外に押し出すことに一生懸命になることがある。表現技法に気を使う余裕もあまりない。時に何を伝えたいのか自体を見失うことがある。表現というよりは、敢えて喩えれば炎色反応だ。
彼は誰にその歌を聴いて貰いたいんだろう?多分、一生懸命聴いてくれる人に聴いてもらいたいということなんだろう。みんなは君のパパじゃない。
シンガーソングライターなんて、もう使い古された言葉があるけど、世の中に受け入れられた連中は、自分の内面を垂れ流すのではなく、如何にしたら人に自分の曲を聴いて貰えるのかに腐心しただろうし、表現技法のブ
ラッシュアップもしたんだろう。また、共感してくれる仲間を増やしながら、大事なポイントは押さえつつ、分業や分担で、自分の持っていない力を、うまく周りの人間から借りているような気がする。作曲の時の編曲や、演奏の時のバックバンドだね。
同じ音楽でもオーケストラというのは賑やかで楽しいね。各楽器の演奏者の能力がしっかりしていてはじめて成り立つ世界だけれど、そこに優秀なコンダクターが居れば、各楽器の音は、単なる足算ではなく、積にも乗数値にもなる。
絵の世界は、もっと排他的というか、一人ぼっちの世界なんだろうけど、リトグラフや版画なら、他の人達の助けを借りることも多くて楽しそうだ。
とても前置きが長くなった。トライアンフ の話がしたいだけ。
第二次世界大戦後から60年代前半まで、英国の
BSAや
TRUIMPHは、
オートバイ生産で黄金期を迎える。背景には、市場の
オートバイへの需要と、英国にいい
オートバイを作るための基礎体力が存在した。何から何まで自分でやらなくても、既に冶金技術やモールディング技術はそこにあったし、下請けを含めて専門の業者が多数いた。BSAなんて同じグループ内で家電製品まで生産していたらしい。当時、世界で一番速かったのは、TRUIMPHの
ボンネビルだったが、その部品のほとんどは英国製だったはずだ。
その後、60年代の技術革新の遅れや70年代の労働争議で停滞している間に、ドイツや日本のメーカーに市場を奪われて行った。どんな産業界でも競争はある。
その後、人も組織も変わったけれど、TRUIMPHのブランドは生き残った。
いつまでも
ボンネビルだけじゃ、とっくにこのブランドは消えていったのだろうけれど、80年代に再起し、90年代には面白い
オートバイを市場に出し始めた。モノつくりの面でも各モデルに共通部材を使用するモジュラーコンセプトを取り入れた。
TRIUMPHらしさを大事にした、強い自己主張をする一方で、市場の声にも耳を傾けている気がするモノつくりだ。なんかここに来て頑張っているよな。
ボンネビルやロケットスリー、
デイトナは遠巻きに見ていたのだけれど、TRIUMPHでとても気になるモデルがある。
"STREET TRIPLE"だ。三気筒エンジン、二つ目ヘッドライトの個性的なストリートファイター。
友人は「部品はほとんど日本製とか、とにかく社外製が多い。」と言うけれど、いいじゃん、最終的にモノマネじゃなくて、独自な
オートバイに仕上がっているんだから。海外メーカーの
オートバイは部品の一つ一つが自己主張し過ぎるっていうけど、いいじゃん、オーケストラの交響曲で、各楽器の見せ場、聞かせ場があるようなもんだ。
たくさんの社外部品や海外部品を使いながらも、しっかりと一つの交響曲に纏められるTRIUMPHの構想力、設計力、品質管理能力は凄いじゃないか。かってのTRIUMPHのモノつくりの発想と、今のTRIUMPHのモノつくりの発想は完全に違うだろうね。すばらしい指揮者といったところかな。
海外メーカーのバイクで、BMWやDUCATIは、バイク仲間が乗っているのを見れば十分だけれど、この"STREET TRIPLE"は、ある意味でとても欲しいと思うバイクだ。