フランス車って何だか捉えどころがないって思われてるようです。明るく陽気で彫刻的なイタリア車。理知的でロジカルなドイツ車。派手で威勢がいいアメリカ車。クラシックで大人っぽいイギリス車。そんな輸入車の中にあってフランス車は、どこか気取って見えるし、でも高級感品質感てのはあまりないし、う〜よくわからん。そういう風に思われがちです。
そうなってしまったのは、自動車メディアが、よく知りもしないくせに、雰囲気で好き勝手な話を書き散らしたせいでもあります。
たとえば代表的なのは、例の『ラテン系』て表現。イタリアとフランスをひっくるめて言うときに使ってるようですが、学術的にラテン系なんて人種の分類は存在しないんです。ラテン語という言葉はあって、ラテン語系という言語分類はあるけど、人種にはない。
じゃあフランス人てのは、どんな人種かというと、中心はケルト人ですね。ローマが欧州の統一帝国になる前に西欧からイギリスにかけて広く住んでいたひとたち。ローマ帝国全盛時はイタリア人に支配されてましたが、ゲルマン民族の大移動で支配者がゲルマン系の人たちになって中世を迎える。彼らはフランク族という民族だったので、それがナマってフランスになったんです。
さて、そんな成り立ちのフランス人が作ったクルマはどういうものか。大衆車や実用車が多い?
一応正解です。しかし、それは第二次大戦後のことで、戦前のフランスはブガッティを始めとする超高級車で知られた国でした。
それがなぜ戦後にルノー4とかシトロエン2CVとかの、値段の安い実用一点張り車の全盛になったかというと、戦後復興政策に大きな関わりがあります。フランスは第二次大戦時にドイツに事実上占領されて国がズタボロになりました。なにせ宿怨のライバルであるドイツに蹂躙されたわけで、心の傷は深かった。そこで戦後に戦勝国となって世界の再構築をする側の一員になった彼らはまず考えました。「もうあんな悔しい思いをしたくない」。そして戦後復興は国の力をつけることをまず最優先にした。となると戦争で打ちひしがれた人々の生活向上は後回しになる。負けたことで支配層と搾取層という構造が崩壊し、結果として巨大な中流階級が生まれたドイツや、階級構造がまったく変わらなかったイギリスとは、事情がぜんぜん違ったわけです。
だからフランスには、豊かとはいえない庶民の割合が多くなった。となると自動車もそういう人たちに向いたものが必要になる。そこで政府はルノーを国営にして、大衆車を中心にさせました。また税制も、贅沢なクルマに歯止めをかけるため、馬力がデカくなるほど強烈に率が高くなる税制を布いた。
ちなみに、ルノーが戦後すぐ送り出した大衆車は4CVといい、これは戦時中にヒトラーの命でポルシェ博士が造り上げたVWビートルに大きく影響を受けたものでした。だから戦後のルノーはRR方式になります。エンジンはとうぜん縦置き。世の趨勢がFFになった70年代に彼らもFFに転換しますが、リヤに積んでいたエンジンとトランスミッションをそのまま前に持って来たので、縦置きFFとなりました。世間のクルマはその頃、イシゴニス技師がミニで世に問うたエンジン横置きFFが多勢になっていましたから、ルノーは天邪鬼に見えたかもしれません。しかし、彼らにとってそれは「反対のための反対」じゃなく、理に沿ったものだったのです。
じつはシトロエンもそうでした。彼らもやはり大衆向け実用車として2CVを送り出しますが、その傍らでDSという意欲作を造ります。現在のC5やC6にも使われるハイドロという独特のメカを持ち、内外装までも異様なクルマでした。だからひとはDSをアバンギャルドだと言います。しかし、開発記を読むとそうとは思えなくなります。あの変な格好は空力のため。税制の縛りがあるので、出来るだけ少ない馬力で速く走りたいから流線型になったんです。ハイドロも機械工学的に分析してみれば、何も魔法の仕掛けじゃなく、要するに普通のダンパーにエアバネと車高調整機構を使ったもの。じつは原理上は今のマジェスタと変わらないんです。エアバネは、最初柔らかくて、でも沈むほどに硬くなる特性を持つ。そこに彼らはアシの理想を見たのでした。そう。あの不思議な操作系も、彼らが彼らの理想に従って、非常に真面目に論理的につくり上げたもの。「ひとと違うカッコにするため」じゃなく、「ひとと違う道筋を行ったら、結果としてひとと違うものになった」だけなんです。
そういえばエアバネ独特の柔らかさは、フランス車全体の特徴でもありました。考えてみれば馬力がないのにアシを硬めてもしょうがない。逆に、再加速は大変だから、どんな凸凹があってもアクセルを緩めたくない。そこでデカい凸凹も飲み込む柔らかくてよく動くアシが必要だったんです。
という風にアシも柔らかかったので、椅子も柔らかくなりました。じつはアシと椅子の硬さは揃っていないと人間の間隔に合わない。好みの問題じゃなくて、生理学的にそうなんです。だからアシが硬くなってきた最近のフランス車は、シートも硬くなってます。
という風に乗り味は柔らかくマッタリ系ですが、フランス車はじつは攻めるとニュートラルステアです。つまりリヤがけっこう流れる。プジョーがその典型です。普通は乗り味がマッタリ穏やかだと、旋回特性もアンダーで穏やかって考えちゃいますが、ところがどっこい飛ばすほどにリヤがきれいに外へ出る。世のフランス車ファンは優しい乗り味をことばかり言いますが、その走りの奥の奥のところは攻撃的なんです。
どうでしょう。世間で言われてる話と違うと思いませんか。そのあたりに気がついて面白くなってくると、フランス車の愉しみもっとずっと深くなるんです。
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